2013年6月22日土曜日

#148 deep inside -day 1-

いつもより早い時間に起床する。泊めていただいたO主任主査にお礼を告げ、大船渡を出発する。
県道丸森権現堂前線沿いに開店したコンビニで、朝食を入手する。周辺に店舗はおろか、建物が殆ど存在していないので、店内は工事関係者でごった返していた。

途中、通岡(かよおか)峠にある「湯屋処まつばら」でひとっぷろ浴びていく。この時間帯は200円と破格。この一帯は、陸前高田に本社のある、村上商事が開発した「クレヨンシティー」と呼ばれるレジャー施設になっている。東北地方を中心にカラオケやパチンコなどの娯楽店を多数展開しており、気仙沼の行きつけ、スイーツクレヨンもその一つである。

約束の時間より少し早めにモビリアに到着する。既にビブスを着用したボランティアの面々が、ウッドデッキの補修を行っている。今日は何人参加するのかさえ知らないので、この人たちも一緒なのだろうか...

しばらくして、八起プロジェクトのNさんがやってきた。本来であれば昨晩オリエンテーションが行われたのだが、都合により参加できなかったので、個別レッスンとなる。
足湯ボランティアの名前は聞いたことがあったが、具体の内容を知っているわけではない。Nさんから事前勉強をしておくように!と言われたサイトで付け焼刃の知識は得たが、実践は不明。

足湯ボランティアとは、被災者の方に足湯に使ってもらいながら、手を揉んだりすることによってリラックスしていただき、普段思っていることや気になっていることをつぶやいてもらうための活動である。つぶやきはデータとしてまとめられ、改善が必要なものについてはフィードバックが行われる。合わせて「お茶っこ」と呼ばれる団らんの場を設けることで、知らない人同士の顔合わせの機会を創出する。

介護士のTさんから手ほどきを受ける。お湯の入れ方、声のかけ方、お客さんへの触れ方などなど…かつてない緊張感に襲われた。

手引きに目を通していると、ある致命的なミスに気付いた。昨日準備する時間があったのに...陸前高田市の社協にダッシュし、めちゃくちゃ無理なお願いを快く聞いていただく。しかし、この無駄な動きのせいで、出発時間に間に合わなくなり、現地合流となった。
今回は出張チームとモビリアチームに分かれており、自分は出張チームに加わることになった。Nさんのほか、日本語を自由に操るアメリカ出身の熱血ボランティアウーマンKさん、そして最高学府の現役学生T君と4名でユニットを組む。

米崎町にある仮設住宅を訪ねる。世帯数は20に満たない小規模なところだ。ワゴン車から必要な機材を降ろし、空き部屋を活用した集会所へ運び込む。段取りがわからないのでマゴマゴするが、なんとなく雰囲気がつかめてきた。
自治会長さんの協力もあり、ある程度準備が整ったところで、呼び込みを行う。Kさんはガラスが割れるのではというくらいの勢いで玄関をノックする。これぐらいしないと音が聞こえないとのこと。

自治会長さんも交えながらお茶っこをしていたところ、お年寄りの夫婦と女性の3名の方が訪ねてくれた。しばらくお茶っこをし、まずはKさんが男性の足湯を始める。お湯組係をしながら、様子をうかがう。
入れ替わり、70代と80代の女性の足湯を、自分とT君で行う。緊張のあまり、あまりスムースに事を運べないが、いくつか会話することができた。しかし、T君の担当する方から大阪万博の話がでて、そっちにのめりこんでしまうことに。人生初めての経験だったので、はたしてリラックスしてもらったのかどうか...
しばらくして50代の女性も来場する。その後、自治会長さんとこの地方の地名の由来やよもやま話をし、T君が足湯を担当する。

店じまいの時間となったので、機材の後片付けを行う。ここの集会所は、数冊の本や飲み物、ソファーがあるくらいで、やや殺風景である。今の自治会長さんは、集いの場の創出を試みられているが、残念ながら、まだそういった生活臭的なものを感じることは出来なかった。

マイヤで昼食の買い出しを行い、箱根山の展望台で昼食を摂る。大船渡の末崎から広田湾、唐桑半島まで見渡せる思わぬ絶景に、驚嘆の声を上げる。
Nさんが買ってくださったパイナップルを頬張り、しばし歓談する。

昼食を終え、同じく米崎の仮設に向かう。二十数世帯の仮設住宅の駐車場の一角で店開きをする。
しばらくして自治会長のご婦人が帰宅され、在宅していそうな家庭を訪問し、参加を呼び掛ける。
ほどなく女性がみえ、Kさんが足湯のサービスを行うことに。そしてT君が男性の対応を行う。そして老夫婦の順番となり、自分がご主人を、Kさんが奥さんを受け持つことに。
負けへんで!紀伊半島Tシャツに注目。Nさん撮影。トリミング済
ご主人から、震災直後のお話を伺う。バイクで転倒してからの出来事などなど..。様々な偶然が重なって、いまここにご主人がお見えになる。一つでもかみ合わなかったら津波に飲みこまれていた。また、ご主人のおかげで救われた命もあった。.詳細を記述すると個人が特定されてしまうかもしれないので、このあたりでとどめるが、一人一人に騙りつくせない物語があるように感じた。
そして、数名が最後までお茶っこしてくださり、たくさんのお話を伺うことが出来た。

後片付けを行い、モビリアへ帰還する。倉庫に荷物をしまってうろうろしていたら、振り返りの時間となった。八起プロジェクトの事務室で参加メンバーが本日の感想などを述べあう。小さい仮設ではなかなか支援の手が届きにくいといったことや、出張時に不足するものなど情報共有を行う。

一通り報告が終わったところで、Kさんから被災した子どもたちの話をうかがった。
最近、やってきたボランティアに暴力をふるう子どもたちがいる。その原因の一つとして、子どもの境遇を憐れむ親が甘やかし、図に乗ってしまうことにある。家庭での震災の話はタブーかもしれないが、それは克服しなければならないし、活動するボランティアも、そういった子どもたちにきちんと接するための指導を受ける必要がある。

明日の活動にも参加することを表明するだけでなく、夕食と宿泊も一緒にする。なんとなくこうなることは予感できていたので、日曜の予定をあえて外した。行き当たりばったりなのは、自分の人生と同じか...

入浴と買い出しに向かうため、マイヤで買い出しを行い、本日二度目の湯屋処まつばらへ。なぜかO氏は着替えではなく、買った食料を持ち込んでいる...Kさんの時間管理は大変厳しいため、1分たりとも遅れることは出来ない。20時ロビー集合ギリギリに向かうと、既に女性チームは待ちわびていた。

出張チームに、モビリアチームのY氏、O氏、Tさん、そしてNさんと八起プロジェクトのYさんも合流し、懇親会となる。
活動経験が豊富なメンバーなので、いろいろな話を伺うことが出来た。それぞれ面識が殆どないにも関わらず、ずっと前から一緒に活動しているような心地よさ。これがボランティア活動の醍醐味かもしれない。

明日の活動に備え、就寝することに。すっかり寝静まったモビリアを、月明かりが照らしていた。