2013年5月15日水曜日

#110 相互乗り入れ

風はないものの微妙に寒く、ドカジャンが必要となってしまう。街も靄で覆われているような感じだ。

朝一、水産漁港部からの来客があり、ある現場の対応について少し打合せを行う。そののち、今度はこちらから、自分の担当現場に関する調整のため、土木事務所に打合せに出向く。様々な調整が日常的に発生する。

9時半、H技査と、保安林に関連する業務を担当する森林管理班のW班長、N技査とともに現場に向かう。三重では工事の担当がすべて任されていた業務が、班として独立して執行されている。裏を返せば、それだけ手続きが増加しているということなのだが…

最初に、市内の岩井崎付近の現場に向かう。W班長は、地上権の解除業務のため、この周辺を幾度となく訪問したとおっしゃった。以前、登記簿を確認した時も疑問に思ったが、なぜか海岸付近の民有林に県が70年の地上権を設定している。今はすべて契約は満期を迎えているが...

この地上権が設定されていた森林は、昭和三陸地震津波の後、防災林整備と雇用対策という目的で整備されたもの。特に七ヶ浜町以北に多く存在しているそうで、特にこの管内が多いとのこと。以前話を伺った、国有林より海側の民有林とはこのことだった。

気仙沼市内の要対応現場を確認したのち、既に完成している「天ケ沢」という現場を見せてもらう。崩壊した山腹のさらなる浸食などを防止、そして緑化するため、自然植生侵入型のマットが張られている。自然公園区域内のため、このようなマットが選択されている。
高さは20mくらい。津波は海面から2/3のところまで到達した。
南三陸町歌津へ。自分が受け持っている現場に近接する箇所に降り立つ。あらためて、倒壊した防潮堤の断面を眺めてみる。
鉛直方向の目地で切り離されてしまっている。これから再整備される堰堤には、こういった箇所に「スリップバー」と呼ばれる部材を追加し、分離、転倒することを防止する。
波の進入方向や高さなど、諸条件が異なることは承知だが、自分の担当現場は最近作られた防潮堤のためか、転倒はしていない。

ちょうどお昼になり、南三陸町志津川の役場近くにある「静江館」という食事処に向かう。駐車場はごった返しており、ちょっと待つことで席になんとかありつけた。
昼はお刺身定食
南三陸町役場に調整のため立ち寄り、打合せのため南三陸ホテル観洋へ。
業務関連の打合せを行った後、震災の話になった。このホテルは震災後の対応や活動が特に有名だが、地震動に対し建物などが全く損傷しなかったことで、それを実現できた。

また、この地域における若年層の流出が非常に問題だと話をされた。住居などを失った若者が、首都圏などへ移住してしまったという。若者にとって、いろんな意味で被災地は過酷な環境だと思う。しかし、その過酷な環境を甦らせるのも、また若者である。

その後、H技査からの引継を兼ね、南三陸町戸倉の担当予定現場に向かう。土地所有者の方に進捗状況の報告に伺うと、庭にはネコが一匹。監督員代理に指名したいところ...
うちの「みぬゆき」級の巨大さ
業務終了後、坊主頭のS技査からお声がかかり、急きょ懇親会となる。やきとりのおいしい店に向かう。急な召集にも関わらず、9名でざっくばらんに意見交換をする。

帰宅後、三重で以前からお世話になっているK市の消防士さんから、「被災地の自治体に、人材を派遣する以外に、例えば現地に行かなくても出来る支援は何が考えられるだろう?」と問い合わせがあった。今の自分や大船渡市役所派遣時のことを考えてみた。

派遣される職員は、派遣先のニーズにあった職種の者が送り出されるため、ベースとなる全国共通の部分は当然理解している。例えば公共事業であれば、現地調査→測量設計→積算→発注・公告→入札→契約→着工→現場監督→完成→検査といった流れや、歩掛、基準、規格など。

しかし、事務の運用や各種手続、情報システムなどが異なっているため、習熟に時間を要し、また来た日から100%能力発揮というわけにはいかず、教えるという業務が負担になり、受援側のリソースを消費してしまうことになる。今の自分が困っているのは、こういった運用や手続部分である。

大船渡市役所派遣時、ここで利用されていた積算システムは三重と同型だったため、誰からも教えられることなく、即座に使用できた。運用や手続部分が同一とまでは行かずとも、酷似していれば、教える手間が省略に出来、即戦力として活躍できる。

また、一歩進んだ考えとして、日常業務を行う上でのルールや運用、手続きを共通化しておくことで、業務を即時にバックアップすることも可能である。
例えば、上記の公共事業の場合、現場を確認する必要がほとんどない部分、積算~契約については、ルールを共通化しておくことで遠隔地でも十分実施できる。うまく分業が出来れば、被災地の職員は純粋に現場のみ担当し、協定相手が後方支援的に事務を実施するという仕分けができる。

多様な地域特性が存在するため、事務の完全共通化は不可能にしても、30%くらいでも実現できればメリットは大きいと思われる。他にも、情報システム調達なども協力して行えば、規模のメリットが期待できる。

鉄道の相互乗り入れも、線路が繋がっていて、線路の幅が同じで、車両の大きさも同じで、架線電圧が同じだけでは乗り入れは不可能。ハード規格の統一だけでなく、子細な調整事項が一つづつつぶされることによって、安全に毎日、様々な鉄道会社の乗り入れが行われている。

ここ最近、様々な自治体間での災害時応援協定の締結が盛んである。広域の災害でも、同時に被災する可能性の少ない自治体間の連携も増えている。協定締結は、首長同士の握手など、メディア写りが良い。しかし、協定の締結だけでは相互乗り入れは出来ない。平常時も非常時も行き来するための始まりだと思う。